病院勤務医の労働環境の改善が偏在化問題解決のポイント

医師不足の解消のため、従来の方針を転換して医学部の入学定員の増加が図られていますが、いくら人数を増やしても、診療科や地域による配置のアンバランスが解消されない限り、問題は一向に解決されません。医師不足はどこで起きているのでしょうか?

まず、過去12年の医師数の変化を診療科目に見てみると、全体としては病院で18%増、診療所で19%増ですが、診療科によってはかなりのばらつきがあります。増減には衣料需要の変化も関係しますが、人数が減っているか、伸び率の低い診療科は、厳しい状況にあると考えられます。

目立つのは、産婦人科(産科を含む)で、病院で10%減、診療所で5%減です。この間に少子化でお産の件数自体も10%減っていますが、時間外の金対応がしばしば必要な労働条件のほか、訴訟リスクも医師が減る理由の一つとなっています。
最高裁の統計から提訴された医師の率を計算すると、産婦人科は全診療科で最も多い1.7%で、外科の2倍、内科の4倍となっています。

外科医は、病院で9%減っています。心臓血管外科、呼吸器外科、小児外科を合わせた「外科系」でも1%の減少です。この間に病院で行なわれる手術(全身麻酔)の件数は46%も増えています。
手術件数には他の診療科のものも含まれますが、手術の多い脳神経外科と整形外科を合わせた医師数も横ばいとなっており、負担の高まりが明らかです。

内科医は、病院で17%減です。循環器内科、消化器内科などを合わせた「内科系」でも3%増にとどまります。診療所の内科は若干増えていますが、高齢者の増加でないかの需要は高まっており、病院の診療体制には不安が生じています。

一方、麻酔科医は病院でも36%と大幅に増加していますが、先述のように病院での全身麻酔手術は同じ時期に46%も増えています。安全確保が重視されるようになったこともあり、医師数の伸びを上回って出番が増え、麻酔科医不足の傾向が強まっています。

女性医師が増えたことも現場の状況に影響しています。2008年末時点で医師全体の18%は女性ですが、30代は27%、20代は36%を占めます。皮膚科41%、眼科37%、麻酔科32%など、不規則勤務の少ない診療所で高い比率となっています。

小児科(32%)、産婦人科・産科(26%)も女性比率は高いのですが、苛酷な労働環境のため出産や育児と両立できず、働き盛りで辞める人も多く、仕事と出産・育児の両立支援や復職の支援が重要になっています。

医師の適正配置を図る対策として、各科の専門医制度に定員を設ける、若手医師の配置を公的機関で決めるといった提案が出ていますが、一番のカギとなるのは労働条件の改善ではないでしょうか。日医総研がまとめた報告書には「診療所の勤務医並の待遇や労働環境を、病院勤務医にも確保するのが正しい政策」と提言しています。

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